時間のデザイン

このウエブの推進係をしておりますチーム西尾の臼井ちかです。
お知らせをひとつ、お誘いをひとつさせてください。


お知らせ
「アートプロジェクト」についての考察と六本木アートナイト「カラダひとつプロジェクト」
について書いた文章が、本日発売の書籍となりました。

芸術教養シリーズ18
時間のデザイン ― 経験に埋め込まれた構造を読み解く

【編集】中西 紹一、 早川 克美編
【著者】中西紹一、中西裕二、松田朋春、森高一、菅山明美、臼井ちか
【発行】京都造形芸術大学
【発売】幻冬舎
【値段】2,376円
【Amazon】 http://www.amazon.co.jp/dp/4344952588/


第13章 アートプロジェクトにおける「越境する時間感覚」
第14章 作品そのものに「ダイブする」時間のデザイン

上記の章を担当いたしました。


「アート作品やアートプロジェクトは鑑賞者や参加者としての自分の存在を超える時間を提供してくれる存在である」と述べましたが、この本の編者中西紹一さんの、まるでワークショップのようであったご指導、西尾美也さんのアートプロジェクトに携わったこと、この二つのことが同時に進んだことで、私自身が自分の枠を超えて本を執筆することが出来ました。

長年の仕事の経験を背景にした私の考えが、読んでくださる方に小さな変容をもたらすことが出来たら、それもまたアートがもたらす時間のデザインだと思います。

そして、中西さんと西尾さん、二人の恩人に深く感謝を申し上げます。


お誘い
2015年2月21日(土)〜 2月23日(月)に清里でお勉強会があります。
実行委員の一人として携わっております。

「つなぐ人フォーラム」
http://www.keep.or.jp/about/kankyo/forum/

古き良き木造の西洋建築の中で知恵とスキルの詰まったワークショップに参加し、
地産の材料を用いたかわいいコックさんのお料理に目も口もうっとりし、
窓の外に雪を見ながら、暖炉に薪をくべ、たくさんの方々との対話を楽しむ。

忙しい方、有効にお金を使いたい方にぴったりな、豊かな二泊三日です。


一年の終わりに、チーム西尾の仲間とこのウエブを運営していることに喜びと誇りを感じ、見守ってくださっているみなさまに感謝を申し上げます。

金沢滞在記

川村彩乃
金沢21世紀美術館の博物館実習に参加しました。

元金沢大学付属の小学校、幼稚園が移転することが決定し、市の中心市街地に活気がなくならぬように、とまちづくりの観点(教育ではなく都市計画のカテゴリ)から考えられて生まれたのが金沢21世紀美術館だそうです。そのため、1995年に構想が生まれてから2004年のオープンまでの長い年月の中で都市計画の専門家や美術関係者、建築家など様々な人が新たに作る市立の美術館をどのようにしていくか考える場に参画していったそうです。通称は「まるびぃ」、丸い形の美術館は『まちに開かれた公園のような美術館』の建築コンセプトの下、生まれました。

実習では初日に黒澤学芸課長から「根本にあるものを良く知り考えなさい。」と教わりました。美術館の掲げている理念を見れば、その美術館が何のために金沢市にあるのか分かります。金沢21世紀美術館は4つのミッションステートメントを掲げています。
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=11&d=1

博物館は何をするところなのか、学芸員は何のためにいるのか、博物館法に記載されています。博物館法は社会教育法から来ていて、教育基本法、日本国憲法と辿ることができます。

どのような役割が求められているのか、また現状何が足りないのか、その基礎を押さえていないと分かりません。「何のためなのか」は絶えず自問し探究し続けることだと学びました。

金沢21世紀美術館では博物館の4つの機能である「調査研究」、「収集保存」、「企画展示」、「教育普及」がチーム化されて組織の中で分業されています。水戸芸術館では学芸員の資格を必要としない演劇、音楽部門も含む全専門職員が「〇〇学芸員」と呼ばれていて強く印象に残りましたが、金沢では学芸員という言葉はなくキュレーター、コンサベーター、エデュケーター、レジストレーター、アーカイヴィストという専門的な名称が使われていました。

私の抱いていた金沢21世紀美術館の第一印象は、最先端の美術館。建物は著名な建築家によるもの。水戸芸術館の後に生まれた地方都市の美術施設なので設備なども新しそう。金沢という都市から積極的に海外作家の展覧会などを良く耳にしていたので、グローバルで先進的なイメージでした。
実習を通じて思ったのはこの美術館は『現在進行形の美術館』だということ。

それは展覧会の内容だけでなく、教育普及など博物館の全機能に総じて言えることです。その理由は金沢21世紀美術館が常に「その後」を意識しているからだと思います。


例えば美術館の教育普及事業。美術館でどう過ごすかをデザインする場が教育普及である、というお話を聞きました。例えば今年の7月から始まった『まるびぃみらいカフェ』。より過ごしやすい美術館を作るかをボランティアで集まった市民の方が主体となって考えていく取り組みです。イベントの企画や館内マップの作成など様々な活動を今後展開していくようです。
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=104&d=1827

また、キッズプログラムを実際に考える講義を受けたときに館で行うワークショップについての話を聞きました。「館のワークショップを通じて相手の視点を通じて自分が見えるような体験をしてほしい。ワークショップで想定外のことが生まれ、それがどう持ち返られた後につながっていくか。」、教育普及事業はボランティアや教育プログラムを体験した人の「その後」=ユーザーエンドを視野に入れた取り組みと言えます。

もう一つの例として、金沢21世紀美術館の所蔵する粟津潔コレクションについて紹介します。
http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1718

粟津さんは独学で絵を学び、デザインや映像、空間デザインなどジャンルを超えた活動をされていました。その方の関連資料約2800点が2006年に寄贈されたのですが、まだ未調査の資料もあるようです。粟津潔コレクションを扱った展覧会を2回開催しているのですが、未調査の作品も混ぜて公開したそうです。
それは展示することも研究や収集につながるから。

公開して粟津潔にゆかりのある人物に資料のエピソードをインタビューしたり、若手作家に展示空間でパフォーマンスをしてもらうことで粟津潔にインスパイヤされた新たな作品が生まれるなど次々に誘発されてコトが生まれていきます。ただ館内でひそやかに資料の研究を行うのではなく、展示などオープンで動的な動きを加えることでコレクションにより意味が生まれていきます。それは所有している現時点のことを見ているのでなく、コレクションがどう「次」に展開していくかを考えているからこそ起こる動きだと言えます。

博物館の各機能が、空間的にも時間的にも美術館の「その先」に向いている。それが金沢21世紀美術館なのだなと実習を通じて感じました。しかも、丸い形でどこからでも入れるようにスキマが沢山ある。館ができて10年になりますが、先を見続けているから新しさが薄れずに続いているのでしょう。


金沢のまちは戦火に遭わず残っている多くの古い家屋や道路沿いに生える木々、ちょっと歩けばすぐに器やお菓子やさんに出会える、昔からの良さが残っている地域です。その伝統ある金沢という街にこの美術館が溶け込んでいるのは、伝統に常に新しい血が吹き込んで絶やさぬようにしていく役割を担っているのかな、と思いました。